おぼろ豆腐

認知症と少子高齢化について考えた記録

(84)病死をフラットに考える

自分が病気になること、いずれ死ぬことはできれば考えたくないことだ。 なぜなら私たちは日々、明るく前向きにといった言葉たちに囲まれている。 楽しいことを考えていれば幸せだし、生活が上手くいくことも知っている。 だから敢えて暗い方は見ないよう無意…

(83)病気になるために生まれたんじゃない

先週木曜日の夜、小林麻央さんが旅立った。 生前彼女が病気、あるいは生死に関してどのような考えを持っていたかは、昨年BBCに寄稿した『色どり豊かな人生』に詳しい。 その死生観は、今まさに闘病生活を続ける患者さんやその家族、これから先の人たちに大き…

(82)介護に役立つツール

ここまで書いてきたように手帳と日記アプリを活用することで私は記憶の補助と心の整理を行っている。 他にも介護にあたっては役立つツールがいくつかあるので挙げてみたい。一つはスマホのカメラ。 役所の書類は未だに手書きで提出すべきものがほとんどだ。 …

(81)思想と表現の違い

前回までで私が日記をつける理由はほぼ書いたのだが、補足でどうしてもこれだけは書いておきたい。気持ちを吐き出す文章は、個人が特定されない範囲であればプライベートな日記でなくともブログやSNSでもいいのではないかと言う人もいるだろう。 または友人…

(80)気持ちに折り合いをつける

自分の頭の中だけは誰にも侵害されることのない、際限なく自由な領域だ。 上手くいかないことばかりの毎日で、今の自分ではどう抗っても解決できない難問の前で、ただそこだけは最後の砦だと思っている。 「どうしてこんな辛い思いをしなければならないんだ…

(79)日記の効果

日記は元々つける習慣はなかったのだが、2004年頃のブログ黎明期、日々の出来事を公開している人たちを見ていいものだなと思った。 行った場所、会った人、食べたもの、観た映画、聴いた音楽、読んだ小説。 これらは活字に残すことで記憶に残り糧となる。 ま…

(78)メモをとる癖

ここまでで一旦回想話は終わりにしたい。 この間たくさんのスターを頂き、ありがとうございます。モチベーションに繋がります。今までの人生で最も濃密だった十日間。(最初のタイトルに「九日間」と書きましたがよく見返したら十日間だったため修正しました…

(77)実家を後に

荷造りをしていると叔母がやって来る。 母のことをまとめた手紙を渡すため前もって連絡しておいたのだ。 「どう?ちょっとは落ち着いてきた?」 叔母は事情を知った上で母に笑顔で接してくれる。 「まだ父さんが死んだって実感がわかないねえ」 居ることが当…

(76)認知症は人としての尊厳を脅かす

いよいよ私も実家に留まることのできる最終日。 家中の灯油を注いで回ったり、古新聞を縛って纏めたりといった力仕事を中心にこなす。 この十日間の様子を見るに、灯油ポリタンク一つはおよそ五日間でなくなる。 一ヶ月では大体6タンクの消費だ。 なくなれば…

(75)昔の記憶、これからのこと

夕食を終えると、洗い物は母がしてくれる。 私は部屋から薬を持ってきて手渡す。 明日には私も帰るため、以降の薬は伯母に託すことになっていた。お茶を飲みながら、また母の昔話に耳を傾ける。 毎度のことながら、私が生まれるずっと前の事柄も鮮明に記憶し…

(74)外食したいと言うが…

姉が帰りその日の晩。 母は外食して鰻でも食べないかと言う。 これから節約するから、これで最後だと言う。 私はしばらく考える。 外食をするなとは一度も言っていない。 ただ、父が死に年金の受給額が減るのだから、今まで通りの支出では赤字になってしまう…

(73)ほとんどの家電に自動停止機能がない

翌日、姉が帰る日。 分担しできることは全てやっておこう。 まず私は家と金庫の合鍵作り。金庫は家の重要書類を入れ、母が間違って何処かにやらないようにするためで、私と姉で鍵を保管する。 鍵を作っている間に掃除用具の買い出し。 いくらヘルパーさんに…

(72)信頼関係が崩れていく

ヘルパーさんに来てもらえるようになるまでは母を極力一人にしないようにせねばならない。 姉は関東に済む母の妹さんに連絡を入れ、母の状態を説明し何日か一緒に寝泊まりして欲しいとお願いした。 妹さんは先日父の葬儀で来たばかりであったが、了承しても…

(71)老後の蓄え

雪は午前中で止んだ。 六日間の滞在を終え、妻と娘が先に帰るため私は駅まで見送る。 途中だだっ広い駐車場にまだ足跡もないふかふかな雪が積もっていたのを見つけ、娘が遊んでいいかと聞く。 いいよと言うと喜んで駆け出した。私も笑顔になりたいが今はでき…

(70)「ここから、長いですよ」

「まだら痴呆であるかもしれません」 と医師は言う。 ただし彼は外科医であり、専門の診察をしたわけではないのであくまで参考意見の域を出ないのであるが。 「まだら痴呆」とは脳の血流が悪くなることによる認知症の一種で、アルツハイマー型とは異なるらし…

(69)椎間板ヘルニアと担当医

母の担当の外科医は先日の心療内科医と同様複数の医院掛け持ちであるため、診察は月に一度だけ。 やはり高齢者ばかりの待ち合いロビーで順番を待つ。 母は「トイレに行ってくる」とソファを立つ。その際財布の入った小さな手提げバッグはソファの上に置き去…

(68)バスの乗り降りも覚束ない

雪道を考慮し余裕を持って家を出たためバス停には早目に到着する。 前の日に私は市が発行する高齢者用の半年間有効フリーパスを購入し、それをパスケースに入れて母に渡してあった。 バスの営業所にも赴き、そこで路線図と時刻表も入手していた。営業所の駐…

(67)雪に覆われた町

ドス、ドスと鈍くて低い音が断続的に、夢見心地に聴こえてくる。 懐かしい感覚だ。 昨晩の内に降り積もった雪が屋根から滑り落ちる音である。 その重厚な塊は木造の我が家を僅かに揺らすほどの振動をもたらす。 もう少し寝ていたいが不規則な周期で眠りの海…

(66)詐欺は見抜けない前提で

仏壇屋の営業を家に上げたことは私と姉にとって新たな悩みの種となった。 それより遡ること2年前、母は一度振り込め詐欺に騙されかけている。実家に私の名前を騙る男からの電話があった。 声も似ていたため、すっかり信じて話し込んだのだという。 ところが…

(65)仏壇屋の便乗商法

次に私たちがしたことは家から火気を極力遠ざけること。 良くか悪くか、母はフライパンを使う料理はほとんどしなくなっていたため、火を扱う機会は減っている。 しかし好きな煮物料理はまだたまにするようだ。これはグリルと同じく取り上げるわけにはいかな…

(64)通帳カード印鑑が見つからない

約束の時間になり、父がメインバンクとして利用していた銀行へ向かった。 事前に伝えておいた名前を言うと別室に通され、おそらく私よりも若いと思われる担当者と名刺交換をする。 この日の目的は父の預金口座の相続だ。 最初に、私には予備知識がまるでない…

(63)選ばなかった方のシナリオ

翌日は金曜日。 平日の内に私と姉は役所や金融機関を回らねばならないため、妻にはその日まで居てもらい、家事を任せることになっていた。 この間、娘にとってはよほどストレスであったことだろう。 大人には相手をしてもらえず、友達もいない。天候不順で外…

(62)伯母のこと

心療内科から帰宅し、私と姉は伯母の家へと向かった。 父には姉と妹がおり、葬儀の際に忙しく立ち回ってくれたのは妹(叔母)の方。 だが距離的に我が家から近いのは姉(伯母)の方なのだ。伯母も当然高齢だ。近年は大きな手術もしているし、補聴器が必要な…

(61)「世間体」が残った

医師はカルテに目を通しながら母の来院歴を私たちに教えてくれた。 最初に鬱病と診断されたのが3年2ヶ月前。医師はその原因となった伯父の病気のことも知っていた。 抗鬱剤を処方したところ、最初の3ヶ月で改善が見られた。 そこからは量を調整しながら、…

(60)病名は「薬物依存症」

介護認定の申請には主治医の意見書と、本人の身長体重を申告せねばならない。 診察を終えると、母は隣の部屋で身体測定を行う。 これで残った私と姉は医師に母の症状を包み隠さず伝えることができる。足のふらつき、薬を飲みすぎる他にも、こういったことが…

(59)眠れぬ苦しみ

順番が来て診察室に入る。 主治医は母と一緒に私と姉が来ることは事前に受付から聞いていたはずだがそれには触れず、初対面の挨拶を交わす。 父が亡くなったこと、今日の目的は介護認定のための意見書を貰うことも改めて話す。 普通であれば医師との話があま…

(58)待合室とワイドショー

午後からはいよいよ母の心療内科の受診だ。 元々月二回の受診日の内の一日ではあったのだが、主治医は他の診療所とかけ持ちであるため週に一、二回ほどしか顔を出さない。 この日を逃してしまえば私も姉も仕事復帰してしまう。 何としてもこの日、主治医に母…

(57)初七日の朝

初七日を迎えた朝もまた慌ただしい。 仏花やお供えの支度をしつつ、木魚やおりんといった仏具を並べるのだが正しい配置がわからない。 こういう時はスマホが役立つ。 「何でもそれでわかるんだねえ」と母はしきりに感心する。約束の時間より少し早く住職が到…

(56)職人の血

戦後の昭和20年代後半、日本中にパチンコブームが興ったという。 私の地元も例外ではなく、駅前をはじめとし市内には何軒ものパチンコ屋が林立した。 母の父、つまり私の母方の祖父は知り合いに話を持ち掛けられ、共同出資でパチンコ屋を開店したのだそうだ…

(55)母の幼なじみ

私と母はカメラ屋さんを後にし帰路につく。 正月明け早々とはいえ、町の商店はどこも閑散としていた。 花屋の前には軽トラックが停まり、エプロン姿の若い女性店員が重そうな鉢植えを荷下ろししている。 過疎化の進むこの町で、若者はどんなことを考え日々暮…