おぼろ豆腐

認知症と少子高齢化について考えた記録

(66)詐欺は見抜けない前提で

仏壇屋の営業を家に上げたことは私と姉にとって新たな悩みの種となった。
それより遡ること2年前、母は一度振り込め詐欺に騙されかけている。

実家に私の名前を騙る男からの電話があった。
声も似ていたため、すっかり信じて話し込んだのだという。
ところがその内容は滅茶苦茶だ。
・耳の病気にかかってしまった
・携帯を水没させ、電話番号が変わった
・既婚女性を妊娠させてしまった
・そのためまとまったお金が必要だ
テレビや新聞で盛んに話題になっていた典型的な振り込め詐欺だ。
第一トラブルを詰め込みすぎだし、今時こんな手口に引っ掛かる者がいるのかと思うような内容だが、母は一度はそれを信じ「そんな大変なことがあったのなら一度帰って来い」と相手に話したのだという。
その時は暫くして冷静になり、ようやくおかしいと感じて改めて私に電話を入れ、やっぱり詐欺だったのかと分かったという。
当時は「しっかりしてくれよ」なんて笑い飛ばしていたものだが、いよいよ笑い事ではなくなってきた。

今の母ならば間違えなく「行くところまで行く」だろう。
例えば今、葬儀屋を騙る者が来て父の葬儀代金を請求したら、母は間違いなく支払おうとすると断言できる。
疑うことがなくなったのは、こっそり介護準備を進めやすい半面、こういった対話式の詐欺には全く歯が立たない。
確実に言えるのは、母が引き出せる銀行口座に大金を入れてはならないということだ。

父の生命保険の受取人は母であるため、どうしても一旦は母名義の口座に入金されることは避けられない。
よって入金後は直ぐさま姉が管理する口座に全額を移そう。
母には口座を一本化する名目を伝えればいいだろう。
それとは別に母には、葬儀、お墓関連は全て私たちが支払いをするので何もしなくてよいと念押ししよう。
そして何があっても判子だけは押してはならないと言い聞かせるのだ。
本来なら印鑑も預かってしまいたいところだが、母はATMが使えないため預金を引き出すためには通帳と印鑑が必要なのだ。
私と姉は夜遅く、そんな相談を重ねた。

眠る前、私は改めて父の仏壇の前に座った。
本当なら毎朝手を合わせなければならないが、考えることが多すぎてつい疎かになっている。
遺影を見つめながら、心の中で話しかける。
父さん、困ったことになったよ。
母さんを一人にはさせられないよ。
けどオレもこっちじゃ働き口ないしなあ。どうしたもんかね。
あと見つからない通帳や印鑑、どこにあんのかなあ。