おぼろ豆腐

認知症と少子高齢化について考えた記録

(44)みんな、心にストレスを抱えている

母は父の死を受け入れられず、今が特別不安定な精神状態なのかもしれない。
それにしてもこのまま独りにさせるわけにはいかない。
気持ちが落ち着くまでは母の妹さんに一緒に泊まり込んでもらうようお願いしてみようか。
夜の十時を過ぎた頃、私は姉と今日あったことの情報交換と、明日以降の相談を重ねた。

「わたしも今日は眠れそうにない。睡眠薬飲むよ」と姉。
姉も一時期精神が不安定になり、睡眠導入剤に頼っていた時期があったのだという。暫く必要なかったのだが、一応御守り代わりに持ち歩いていた。今晩は何年か振りに必要だ、と言う。
「叔母さんもあんなに元気に見えるけど、兄ちゃん死んでから顔面神経痛があるんだって。右のほっぺがいつもこわばってるの気づいた?」
私たちが「兄ちゃん」と呼ぶのは叔母さんの息子さんのことで、私たちの従兄弟だ。
数年前にやはり精神を病み、アルコール中毒など色々なことがあった末に40代で命を落とした。
「そうか、叔母さんにも頼りっきりってわけにはいかないね」

程度の差異はあれど、一見健康に見えても、心に何かしらの問題を抱えている人は多い。
私もこれまで薬にこそ頼ることはなかったものの、人間関係で塞ぎ込み、息を止めるようにただその辛い日々が過ぎ去るのを待ったことがある。
ストレスを抱え込まない人などいない。

「でも母さんが鬱病ってのは今でも考えられないよ」
私の言葉に姉はしばらく考え込み、こう返した。
「あんたが小学生のとき、母さん10キロも痩せたんだよ」